映画ファンとしてのみならず、バレエファンとしても公開当初から気になっていたものの完全に見逃したままの状態だった「ブラック・スワン」をWOWOWにてやっと録画鑑賞。2010年のアカデミー賞でナタリー・ポートマンが主演女優賞を受賞し、作品賞や監督賞でもノミネートされていた作品です。
「ブラック・スワン」
原題:BLACK SWAN
製作:2010年 アメリカ
上映時間: 108分
監督: ダーレン・アロノフスキー
振付: バンジャマン・ミルピエ
出演: ナタリー・ポートマン (ニナ・セイヤーズ)
ヴァンサン・カッセル (トーマス・ルロイ)
ミラ・クニス (リリー)
バーバラ・ハーシー (エリカ・セイヤーズ)
ウィノナ・ライダー (ベス・マッキンタイア)
【宣伝コピー】『純白の野心は、やがて漆黒の狂気に変わる…』
主人公は、ナタリー・ポートマン演じるバレリーナのニナ。ニナはバレエ団に所属している優等生バレリーナだけれど、まだ主役を踊ったことがない。そんな主人公が、ある日、新作の「白鳥の湖」の主役に抜擢される。バレエ「白鳥の湖」は、白鳥オデットと黒鳥オディール一人二役で踊る演目(※二人別のキャストで踊るヴァージョンもあります。ex.Kバレエの熊川版)。主人公は清楚な白鳥は完璧に踊れるが、どうしても妖艶な黒鳥を自分のものにできずにもがいている。そんなとき、妖艶さの塊のようなリリーがバレエ団にやってきて、ニナのコンプレックスを刺激する。主役を取られまいと思うあまり、白鳥と黒鳥に執着するあまり、どんどん精神的に追い詰められ、ついには狂気に囚われはじめたニナは・・・。といった内容。
一言でいうなら、「苦痛を伴う映画」でした。肉体的にも精神的にも非常に痛々しい作品。爪が割れたり、指先のささくれから血が出たり、皮膚が破けたり、そういう場面をリアルに視覚化してあるので、目をそむけたくなるような痛々しいグロい場面が多いです。この手の映像が苦手な私は、途中からそのへんの描写シーンは倍速で見てしまいました。(苦笑)
じゃあ作品としてキライかというと、それがそうでもなくて、肉体的痛々しさの描写が苦手だったものの、精神的痛々しさについては物語として引き込まれる部分があり、とにかく結末が気になってグイグイと引き込まれて見ました。まとめ方、狂気の描き方、そしてその狂気を演じるナタリー・ポートマンの演技、後味、どれもキライではなく、個人的嗜好を抜きにしても秀作という印象。ただ、もう1度みたいか?というと、それはまた別の次元の話で、やはり1回で十分と言ってしまいたくなるという。(苦笑) あの肉体的痛々しさが私にはキツイ。(苦笑)
私自身は、演者として舞台に上がったこともないし、人と競争して何がなんでもトップを狙うといったようなシチュエーションもほとんど(というか全く)経験したことがないので、この映画で描かれているような主役への執着、一番であることへのコダワリってのがイマイチわからない。(端役のほうが気楽でいいじゃんとか思ってしまう。)それでも、こういう世界(たとえ虚構の世界であったとしても)は実際にありえそうだなと思わせる雰囲気のある作品です。
ちなみに私がバレエを鑑賞する場合、黒鳥を理想的に踊ってくれるバレリーナはたくさん見かけるのだけれど、白鳥を理想的に踊ってくれるバレリーナのほうが少なかったりします。妖艶さや邪悪さは意図して作りやすいけれど、清楚さやノーブルさって一朝一夕で意図してできるものではない印象なのだけれど、究極を求めだしたら、妖艶さや邪悪さも清楚さやノーブルさも全て難しいことなのでしょう。自分に置き換えてみるならば、100%の善人を目指すのも厳しいけれど、100%良心を捨て去ることも確かに実際やってみろといわれたら厳しいしね。
キャスト陣は、もう何がショックってウィノナ・ライダーです。今回の彼女の役は、バレエ団の看板バレリーナだったけれど芸術監督からもバレエ団からもお払い箱扱いされて落ちぶれていくという役どころなのだけれど、その様子が女優ウィノナ・ライダー本人に重なりすぎて切ない。昔はハリウッドの売れっ子スター女優、いつでも主役、いつでも美しかったのに、思いっきり脇役、しかも三流女優が演じてもおかしくないような役どころ。昔だったらニナを演じても似合いそうな人だっただけに(狂気を演じるウィノナ・ライダーの迫力は凄かったものです。)、時代の流れを感じました。ナタリー・ポートマンだって「レオン」のマチルダ(=子役)だったことを思えば、それだけの年月が流れているんだけれども。
ナタリー・ポートマンは役柄にピッタリですね。優等生キャラなところも、もともとのナタリー・ポートマンのイメージにピッタリだし、過保護で気性の強い母親からの重圧だとか役を自分のものにできない焦りから狂気にとらわれていく様、どこからが現実でどこからが幻覚なのか、その境目を見失う様子(実際、見ている私もどこからどこまでが現実なのかよくわかってないんだけれども)、最後、黒鳥役は私のものだと主張する場面の迫力は圧巻でした。そしてバレエ。まあプロのダンサーではないのだから、そこは多少差し引くとして、それでも十分バレリーナに見えました。すごいなー。体当たりで演じた性描写のシーンも、彼女のもともとのキャラクターのせいか不思議な清潔感があった印象。
個人的なツボは、ヴァンサン・カッセルのエロ芸術監督っぷり。(笑)すごくハマってました。(笑)この人、モテ男役が多いけど、私には全くカッコよさがわからない人なので、こういうモテ男役をしていると妙に笑えちゃうのですが、その可笑しさも含めて似合っていました。(苦笑)実際、芸術監督の鶴の一声ってのはあるよね。芸術監督の趣味だけで選ばれた主役なんてのはよくある話で、なんでこの人が主役なの!?って思うのもよくある話。(苦笑)
そしてやっぱりチャイコフスキーの音楽「白鳥の湖」の素晴らしいことを改めて実感します。あの旋律が物語る悲劇性と、この作品の悲劇性がうまくリンクして、なんともせつない気分の相乗効果。後味が良い作品ではないけれど、あの結末を狂気からの開放と捉えれば、後味もそれほど悪くないような気もしました。でも劇場で見て、この後味を感じたくなかったかもなーとも思うので、遅ればせWOWOW鑑賞でよかったかな。(苦笑)
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